NO と言える松岡修造さん

まだ松岡修造さんが現役テニスプレーヤーだった頃の話です。

当時ロンドンにいた私は、その日、
松岡修造さんが初出場したウィンブルドンの試合場にいました。
まだ予選で、多分それほど日本でも話題にはなっておらず、
彼の試合を見守る人影はまばらな上に、
日本人ともなると他にいませんでした。

その私さえ、特にテニスファンではなく、
もちろん松岡さんの出場を知って足を運んだわけでもなく、
「せっかくこの地にいるのだから」と立ち寄った先で、
たまたま日本人の名前に気付き、興味本位で
試合途中から観戦しはじめたという安いギャラリーでした。

さて、その予選コート。
センターコートとは違い普通のオープンコートです。
フェンスからは選手のリアルな息遣いまで感じ取れます。
それくらいですから、独り言は全部聞こえます。

「いくぞいくぞー!」「取るぞ取るぞー!」
と、試合中ずっと大きな声で喋っている。

わー、なんか珍しく よく喋る人だなぁー(大声だし)
と、先入観のなかった当時の自分は素直に驚いていましたが、
今となると何の驚きもないですね。ザ・松岡修造。

そんな彼が目の前で見事に勝利を収め、退場していきました。
アガシだったりシュティッヒだったりが人気だった当時、
黄色い声援は遠くに聞こえ、松岡さんは勝ったのにボッチという淋しさ。
選手控えに繋がる道にはスター選手を追いかける日本人女性も
多くいたのですが、松岡さんには目もくれません。

「かわいそう!😭  私は応援してたよって、伝えたい! 」
急に日本人としての使命感に駆られ、
彼の大きな背中を追いかけました。

あと少しというところ、
急に後ろから羽交い絞めにされたのです。

松岡修造さんが遠ざかる。
見上げればゴツイ黒人さん。
私はうっかり「立ち入り禁止区域」まで走りこんでいて、
スタッフにとっ捕まったのでした。

「松岡さん!松岡さん!」と指さしで訴えると、
スタッフは松岡修造さんを呼び止めてくれました。

"Do you know this lady?"
"No."

瞬殺 !!!!!!!


松岡修造・・・独り言はあんな喋ってたのに・・・
英語はノーだけでした・・・

かくして、私はそのままツマミ出され
「ひどい! 次負けろ松岡!!!!」と呪ったのでした。

今この話を聞いたら、松岡修造さんは覚えているでしょうか。
是非サイン色紙の一枚でも贈っていただきたい。
寄せる一言はもちろん、「No!」 で。