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どろぼうと星のおんなのこ

この作品は…
私が自転車カゴに置き忘れた財布を
(しかもプレゼントされたばかりの高いやつを)
一瞬の後に持っていかれた、その心痛から書きました。
さて、どんなラストになるでしょう?



作:うえき あやこ 絵:息子くん



あるところに、若い泥棒がいました。

泥棒といっても、家に忍び込んだりはしません。

買物途中のお母さんがふと置いたバッグを、
女の子が日向ぼっこさせていたお人形を、
お兄ちゃんが自転車のカゴに置き忘れたサッカーボールを、
ひょいひょいっと持って行ってしまうのです。

だから泥棒は自分を泥棒だとは思っていません。

「泥棒っていうのは人の家からお金をたくさん持ち出す悪いヤツだ。
俺は落ちているものや忘れ物を拾っているだけだから泥棒じゃない。
拾った俺はラッキーなだけなのさ」


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


そんな泥棒にも、欲しいものがありました。恋人です。

「かわいくて優しい女の子が、そばにいてくれたらいいのになぁ。」

そんな気持ちが通じたのか、いつの頃からか、どろぼうの傍らに、
フワフワと花びらみたいに優しげな女の子が
ついて歩くようになりました。


まだ小さくて、
泥棒が願っていたような大人の恋人ではなかったけれど、
彼女の微笑みは、泥棒をうっとりとさせて、
それだけで泥棒には十分でした。

その子は何も言わないけれど、
泥棒はなんとなく、
今までのように落とし物を持ち帰ることが恥ずかしくなりました。

なぜか、彼女にはそういう自分を見られなくないと思いました。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ある日、泥棒は女の子に贈り物をしたいと思いました。
でも、最近は人のものを盗っていないので、
店で買うにもお金がありません。

家にあるもので何かを作ろうと思いましたが、
あるものみんな、人から盗ったもので、
それをプレゼントの材料にするのはどうも気分が良くありません。

泥棒はふと、自分の巻いていたマフラーに気づきました。
そのマフラーは子供のころ、クリスマスプレゼントにもらったもので、
とても気に入っていました。

何年も洗わず汚れていたけれど、
何回も洗ううちに元のキラキラとした色が戻ってきました。

泥棒はそれを丁寧に乾かすと、
今度はマフラーを端からといて、
その糸で小さな指輪を編みました。

なんどもやり直して最後にできた、とても綺麗な指輪です。

だから大切だったマフラーは、もうほとんど残っていません。

でも、どろぼうの心は充実感に満たされていました。
こんなに何かに一生懸命になったのは初めてだと思いました。
女の子に指輪を渡すことを考えると、それだけで幸せな気持ちになりました。

翌日、夕焼けの時間、どろぼうは女の子に作った指輪をあげました。

嬉しそうに微笑む女の子の顔を見て、
泥棒の心も夕日の色に染まるようでした。

女の子は、自分の首から星のネックレスを外すと、
マフラーのなくなったどろぼうの寒そうな首に、
そっと、かけてあげました。
そして、指輪で飾った手を振ると、走って帰っていきました。


女の子はそれきり、どろぼうの前に現れませんでした。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


どろぼうは寂しくて何日も泣きました。

そしてまた、人のものを盗るようになりました。

星のネックレスだけが、どろぼうの胸でキラキラと輝いていました。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


その日、どろぼうは公園でうとうと夢を見ていました。
女の子と再び会える夢でした。
目覚めて、また悲しくなったどろぼうは、
星のネックレスに触れようとしました。
そしてさぁっと青くなりました。

星のネックレスがないのです。

落ちているかも、と寝ていた周りを探しましたが見つかりません。

さっきまでは確かにあったのに。
泥棒は祈る気持ちで来た道を探しました。でもどこにもないのです。

きっと誰かが、拾って帰ってしまったんだ。
あんなにキラキラした綺麗なもの、
なんで大事に家に置いておかなかったのだろう。
たった一つの、女の子の思い出だったのに。

泥棒は後悔しました。
そして強く願いました。
他のものなら何でもあげるから、
星のネックレスだけは返して欲しいと。

でも、そんな思いも、届くはずがありません。
ネックレスはもう、戻ってはこないのです。

泥棒は初めて気づきました。
物を盗ると言うことは、
その人から思い出も一緒に奪ってしまうことなのだと。
 
とぼとぼと、どろぼうは家に帰りました。
そして蒲団にくるまり丸くなりました。
真っ暗の中で、小さく小さく、まるまりました。



<おしまい>

カンパル君の節分

                            作:うえき あやこ







カンパル君とお母さんは今日もケンカ。
なぜって?
カンパル君が今日も頭を洗わないから。

「カンパル!頭を洗いなさい!」
「いや~だよ!!」

「頭がくさくなってるわよ。あークサイクサイ!」
「いいんだよ~」

「そんなクサイ頭をしていたら、オニに連れていかれるから」
「オニなんて来ないよ~」

「今日は節分の日よ。絶対にオニが来るわよ!」
「じゃあちょうどいいや。頭がクサイって、オニも逃げるでしょ」

カンパル君がそう言ってニヤニヤするので
お母さんは「あーもう」とため息をついて諦めた。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

夜になった。

キイイ~とドアの開く音がした。
お父さんが帰ってきたのかな?
でも聞こえたのは「きゃあ~っっ」というお母さんの悲鳴。
玄関にいたのはたくさんの大きなオニ!!

「カンパル!! 豆!! 豆をまいて!!」
お母さんが逃げこんできた。
カンパル君はあわてて用意していた豆をつかんで
オニに向かって投げつけようとした。

ところが!
「クサイクサイ!カンパルの頭がくさいよ~!!」と、
なんと豆の方が逃げてしまったのだ。

「何?クサイ頭だと?クサイ頭は大好きだ~!!」
オニたちは喜んでドスドスと部屋に入り込んできた。

一番大きなオニがぬうっと頭を突き出して言った。
「おれの頭もクサイだろう?だからおまえは仲間だ!
なのにツノがないのはおかしいぞ。おかしいぞ~!!」

「おかしいぞ、おかしいぞ~!!」
他のオニたちも太い恐ろしい声で合唱した。

「よし、お前の頭にも素晴らしいツノをつけてやろう」
恐ろしさに動くこともできないカンパルの頭に
オニの手がにゅうっと伸びてきた。

そこに小さい子供オニが飛び出してきた。
「おい! カンパル早く逃げろ!
僕もツノをつけられたんだ。
ツノをつけられたら、もう家に帰れないぞ!!」
子供オニは泣いていた。
子供オニの頭もプンプンくさい。

その時だ、お風呂場からお母さんが叫んできた。
「カンパル!!早く頭を洗うのよ!!」

そうだ! 頭を洗えばいいんだ!

「おいで!!」
カンパルは子供オニの手をグイとひっぱって
お母さんの待つ風呂場へスーパーダッシュした。

「まてまてまて~ぇっっっ」
オニが追いかけてくる。

お母さんは猛スピードでカンパルの頭を洗った。
じゃばじゃばじゃば どしゃー!!

ついでに子供オニの頭も
ぶしゃぶしゃぶしゃ ごしゃー!!

ころん。ころん。
子供オニの頭からツノが落ちた。

「お~の~れ~ぇぇぇ」オニが怒って風呂場に
重なり入ってきた。

「豆!! 戻ってこーい!!」
カンパルが両手をバッと伸ばすと
逃げていった豆たちが
ビューンバラバラーッと飛んで帰ってきた。

カンパルの手に一杯になった豆を見たとたん

「うわぁぁ豆だぁ~っっ」
「怖い怖い~っっ」
オニたちは次々に玄関から外に逃げ出していった。


「良かったね。良かったね。」
豆たちがニコニコキラキラ跳びはねた。


その夜、カンパル君はサラサラになった
いい匂いの頭をお母さんにぴったりとくっつけて
グッスリ幸せに眠りましたとさ。

みんなの頭は、大丈夫?


<おしまい>

神様の名前

                            作:うえき あやこ








すぐ目の前が海。
静かな砂浜から少し離れた小さな町に僕たちは住んでいた。

近所で子供は僕と、お姉ちゃんと、
もうすぐ生まれてくる弟だけだったから、
退屈すると、よくポロポロヤンとフサエさんに会いに行った。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ポロポロヤンは町で一番の年寄りだ。

本当の名前はきっと違うはずだけど、
ポロポロヤンに本当の名前を聞くと「ホントはドンドドンヤン」
次に聞くと「今日はパッパラパーヤン」って、
毎回違うことを言うから、僕はポロポロヤンって呼んでいる。

もうすぐ百歳のポロポロヤンは、
茶色い帽子を被って杖をついてゆっくり歩く。
海に近い大岩の上に座って分厚い本を読む。

僕はそこから何度も海に飛び込んでパシーンと水しぶきを飛ばす。
その度に「ヤメテクダサーイ!」「本ヌレマーシター」と
ポロポロヤンが変な調子で怒るから、
僕はおかしくてまた飛び込んでしまう。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


フサエさんはそんなポロポロヤンの奥さんだ。

フサエさんはポロポロヤンと同じくらいシワシワの顔をしているけど、
ちょっと変なポロポロヤンと違って、いつもキビキビ歩いているし、
買物カーを引っ張って、電車で町の外まで行くこともしょっちゅうだ。

僕が何かにくよくよしていたら、
「そんなの小さい。大丈夫大丈夫!」と
口を真横に開いてウワハハと笑う。

シワシワな顔がもっとシワシワになるんだけど、
僕はその顔がとても好きだ。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


しばらくして、ポロポロヤンが岩の上に来なくなった。

心配して家まで見に行くと
ポロポロヤンが具合を悪そうに横になっていた。

「病気なの?」と僕は心配したのに、
「ノーノー。よく寝るジジ、よく育つ」といつもの調子で返してきた。

フサエさんが「これ以上育ったら二百歳だわ。ウワハハ」と笑った。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


夏も終わりになる頃、天気の悪い日が続いた。

その日、お父さんはお母さんを隣町の病院まで連れて行き、
僕は無理やりお姉ちゃんと留守番をさせられていた。

「退屈だなぁ」と天井を見上げた時だ。

ウワワワワワワーン!!と警報が鳴り響いた。
隣のおばちゃんがスリッパで駆け込んできて叫んだ。
「津波が来るよ!」

僕とお姉ちゃんが息を切らして高台に駆け上がると、
もう町中の人達が集まっていた。

「相当大きな津波らしい」「家は大丈夫かな」
みんなが不安そうに言葉を交わす中、僕ははっと気が付いた。

ポロポロヤンとフサエさんがいない。

そのことを周りに伝えても、みんな顔を見合わせるばかり。
「助けに行かなきゃ!」僕がイライラと叫ぶと、
消防署のおじさんが「もう無理だ。津波はすぐそこまで来ている」と
悲しそうな目で僕の肩に手を置いた。

僕はその手を払いのけると、担架をかっさらって走り出した。
後からお姉ちゃんも追いついて一緒に走った。

海も空も灰色だ。
風の音が工事現場のようにガガガガガーと響く。
僕たちは担架を握り締めて夢中で走った。

  
    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 
「ポロポロヤン!!」

声を枯らしてドアを開けると、布団に横たわったポロポロヤンと、
その手を握るフサエさんがいた。
何か、お祈りをしているようだった。

「助けにきたよ!一緒に逃げよう!」

突然のことに二人は始めビックリした顔をしていた。
そして、いつもならウワハハと笑うフサエさんが、ポロポロと涙を流して
「もう、誰も来てくれないと思った」と泣いた。

ポロポロヤンを乗せた担架を僕とお姉ちゃんが担いだ。
すごく重くて、転ばないのがせいいっぱいだ。

「もういい、もういいよ」とポロポロヤンが僕の手をつかむ。

でも僕は絶対にあきらめたくなかった。
ポロポロヤンは大切な友達なんだ!

その時だ、巨大な波の壁が、突然に目の前に現れた。
オバケがゆらり、と手を広げて捕まえにきたみたいだ。
音も聞こえない。
声も出ない。
みんなその場に凍りついた。
「もうだめだ…」


すると信じられないことが起きた。


波が、まるで思い直したかのように、すうーっと、
僕たちの前から引いていったのだ。

後には青い海と、青い空が戻ってきた。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


僕たちがしばらくポカンと立ちつくしていると、
町のみんなが駆けつけてきた。
「よく無事だった!」
消防署のおじさんがほっとした顔で座り込んだ。

僕はすごく言いたいことがあったのに声が出ない。

すると突然「見たか!どんなもんだい!ウワハハハ!」と
フサエさんが胸を叩いて得意そうに笑った。

それを見て、僕もお姉ちゃんも、ポロポロヤンも、
「ウワハハハハハ!」と大声で笑った。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


後からわかったことだけれど、ポロポロヤンは神父さんだった。

僕たちが助けにいった時、二人は最後のお祈りをしていたのだ。

僕は今も神様を信じていない。
でも、もし本当にいるなら、僕はポロポロヤンみたいな神様がいい。

「でも神様の名前がポロポロヤンじゃおかしいな」と僕が笑うと、
ポロポロヤンは少し考えてから静かに答えた。

「ではプカプカポーヤン。ドーデスカ?」


<おしまい>


これは私の、子供の頃に仲良しだった老夫婦から聞いた話を元に、
亡くなったお2人を偲んで2010年に書いた創作物語です。
まさかその後に東北の震災が起きるとは・・・

お2人の前で、津波は本当に止まったのだそうです。
「信じられないだろうけど」
とフサエさんが話してくれたことも、
きっと本当だったのだと思っています。

ポーチュータと枕の国

                            作:うえき あやこ








僕は寝るのが大嫌い。

お母さんが本を読んでくれても、とんとんしながら歌を歌ってくれても、僕はぜーったいに寝ない!

だってロボットで遊んだりテレビを見たり、楽しいことがたくさんあるのに、夜になったら寝なくちゃいけないなんて、全然意味がわからない。


そんな僕がまた無理やり寝かされそうになっていたある日の夜、
お母さんが「あっ、いっけない!」って、慌てて部屋から出ていった。
多分台所の水か火がそのままなんだ。お母さんはよく忘れる。
「やったねっ」僕はすぐに飛び起きようとした。

その時だ、枕元から声がしたんだ。

そして目の前の変な動物に気が付いた。

そいつは本当に変なんだ。
だってハムスターみたいな体をしているのに
細長い手足があって2本足で立っている。
お腹にはカラフルなブチがあるのに背中は真っ白。
手には長い筆を持っている。

目を丸くしている僕にそれは早口で言った。
 
「僕はポーチュータ!
君を枕の国、マクラーダに連れていくよ!
早く早く!準備をするんだ!
大人に見られたら僕消えちゃうよ!」

それに合わせて台所からお母さんの声
「すぐ行くから、起きちゃダメよー!」

まずい!見つかっちゃう!

「僕どうしたらいいの?」

慌てる僕のおでこにポーチュータのおでこがピタっとくっついた

「目を閉じて、力を抜いて、さあ沈め~!」

次の瞬間、ブクブクブク…
僕とポーチュータは枕の中に沈んでいった。


     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


しばらくするとフワフワしていた足がストンと地面を感じた。

「もういいよ」
というポーチュータの声に目を開けると、
そこは真っ白な世界だった。
あんまり真っ白で天井も壁もわからない。
怖くなって思わずポーチュータをつかんだら…

びっくり!
ポーチュータが大人くらいに大きいんだ。

「さっきはハムスターくらいに小さかったのに」
僕が驚いて見上げるとポーチュータはニヤニヤして
「もっとビックリするよ!何がしたいか言ってごらん!」

僕はすぐに「遊園地に行きたい!」と答えた。
遊園地はお金が高いからって、
なかなか連れていってもらえないから。

するとポーチュータはお腹のカラフルなブチを
筆でスルンと一撫でして、そおれっとジャンプ。
長い筆を空中でクルクル振り回した。

その瞬間、さっきまで何もなかった世界に
大きな色とりどりの遊園地が現れた!

たいこや笛の音、ジェットコースターからは悲鳴が聞こえてくる。

すごいや!僕は駆け出した。ポーチュータもついてくる。

こんにちは、と受付のお姉さんが笑って、
お金を払っていないのに中に入れてくれた。
ピエロのお兄さんが風船をくれた。
ポーチュータもいつの間にかアイスクリームを二つ手にしていた。

僕は食べても食べてもなくならない不思議なアイスクリームを食べながら、遊園地の乗り物全部に乗って、大好きなゴーカートは何周も何周も運転した。いつもは「別料金だからダメ」ってやらせてもらえない輪投げにも何度もトライして、僕の腕の中は景品で一杯だった。

「あー楽しかった!
でも僕ぜんぜん疲れてないよ?まだまだ遊びたいなぁ」

そう言って遊園地を見回す僕に、
ポーチュータは「そうそう、そうか」と満足そうに頷いた。

「でもマクラーダには夜しか入れないんだ。
朝になったら帰らないとね。」

「どうやって帰るの?」

「枕道を帰るんだ。
枕道は暗い迷路になっているから、ライトがないといけないね。」

そう言うとポーチュータは僕の手の平に
筆でくるっとオレンジ色の丸を描いた。
するとその丸がポワッと浮き上がって光りだした。
ぼくが手の平を動かすと、その上をついてくる。かっこいい!

「いいかい?この光は正しい方へ向かっている時はオレンジ色、
間違った方向へ向かっている時にはミドリ色に光るんだ。
ちゃんとこの光を見ながら、正しい方向に帰るんだよ。」

「えっポーチュータも一緒に帰ってくれるんじゃないの?」
僕は急に不安になった。

「だって僕が一緒に帰ったら、大人に見つかってしまうかもしれないだろ?君のお母さんがちょうど部屋にいるかもしれない。そうしたら僕は消えてしまうもの。」

うーん。そうか。怖いけどしかたない。
この光が案内してくれるからきっと大丈夫だ。
僕は自分をそう励まして光を見つめた。

「お、枕道が開いてきた」とポーチュータが空を見上げた。

え?上?と首を上げた瞬間、
空にポカっと灰色の穴が開いて、
ビューっと僕は吸い上げられてしまった!!

「うわうわ、あわあわ、わわわわわ~っっ」

空高く吸い込まれていく僕に向かって
ポーチュータがのんびりと叫んできた
「気をつけてね~。また会お~う」


     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


空にあいた穴に到着すると、そこがトンネルの入り口だとわかった。
手の平の丸い光がより強く光って行く手を照らしている。
枕道だからかな。ガサガサッ ゴソリッ とふいに音がする。

「えーと、こっちかな」
右と左の二手に分かれている道。まずは右に向かってみる。
するとすぐに手の平の光がミドリ色に光った。
ありゃ。最初から間違ってしまった。

「あっちに進んだらどこに行くんだろう?」
ちょっと行ってみたい気もしたけれど、
ポーチュータは「絶対にダメ」って言っていたし、
もしかしたらオバケの国に通じているのかもしれない。
そう考えたらヒヤリと怖くなった。

あわてて元の場所に戻って今度は左に進んだ。
手の平の光がオレンジ色に輝いて僕はホッとした。
ミドリ色に冒険するのは今度にしよう・・・

そうして何度か曲がりくねるうちに、
出口らしき明かりが遠くに見えてきた。
もう少しだ!僕は早足になった。

と、突然手の平の光が弱くなった。
わぁっ消えちゃう!!
ふと振り返ると来た道は真っ暗。
光が消えたら帰れない!

僕は猛スピードで走った。
光はどんどん小さくなって足元が見えなくなってくる。
出口はもうすぐなんだ。急げ急げ急げ~っっっ


     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「はっ」
と目が覚めたのと、
お母さんが部屋のカーテンを開ける「シャッ」という音が同時だった。

「お母さん、おはよう」
心臓のドキンドキンをこっそり隠しながら声をかけた。
ポーチュータはついて来なくて正解だったな、と思った。

手の平の光はすっかり消えていた。
最後に光が弱くなったのは、
多分お母さんが部屋に入ってきたからだろう。
僕の手がピカピカ光っているのが見つかったら、
きっと色々がバレてしまう。

でも「お母さん、もう部屋に入らないで」って言うのは
なんだか怪しまれそう・・・

僕はちょっと考えた。
よし。こう言おう。
 
「お母さん、僕、明日から自分でカーテン開けるから、
部屋に来なくていいよ」

どうしたの急に、とお母さんが笑う。

「あのね。今日から僕、1人でちゃんと寝るから。
夜もお母さん、部屋に来なくていいからね」

お母さんが今度はびっくりした顔で僕を覗き込んできた。
「どうしたの?不思議!」


本当は、もっと不思議なことがあったんだよ。お母さん!


でも・・・それは内緒。



<おしまい>

カブカブカジャーとカブおじさん

 作:うえき あやこ







むかしむかしのあるところに、
白いカブのカブおじさんと
カブおばさんと、カブ孫が住んでいました。

三人はとっても仲良しで働き者です。

カブおじさんは畑で野菜を作ります。

カブおじさんが育てると、
甘い野菜も苦い野菜も全部おいしいのです。

カブおばさんは育った野菜を洗って袋に入れます。

カブ孫はその野菜をみんなに売って歩きます。

「やさい~やさい~おいしいやさい~
カブ以外は、なんでもあるよ~
やさいはいかが~やさいはいかが~」

カブ孫はよく響く良い声をしていました。
遠くにいる人もフラフラ~フラフラ~と
ついその声に誘われてやってきます。

「にんじんくださ~い」
「はいどうぞ。これはニンジン色がきれいなニンジンですよ!」

「きゅうりくださ~い」
「はいどうぞ。これはきゅうり色がきれいなきゅうりですよ!」

「おいもくださ~い」
「はいどうぞ。これは最高にきれいなおいも色のおいもですよ!」

そう。カブおばさんが洗うと野菜はみんなピカピカきれいな
やさい色になるのです。だからカブ孫が売る野菜は
とっても人気があって、いつもすぐに売り切れてしまいます。

野菜を全部売ったら、
カブ孫は暗くなる前にいそいそと家に帰ります。
暗くなるとカブカブカジャーが出るからです。

カブカブカジャーはカブが大好物なオバケ。
その白いおおきなベロでベローンと舐められたら
カブはあっというまに溶けてしまうのです。

「いい?カブカブカジャーが出たらこの呪文を3回言うのよ」

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー!

「カブカブカジャーはこの呪文が大嫌いだからね。
大きな声で唱えて追い払うのよ。」

ところが、カブおばさんにそう何度教えられても、
カブ孫はこの難しい呪文を覚えられません。

だから急いで帰るのです。
暗くなる前に。暗くなる前に。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ある日曜日の夜。
カブおじさんたちは仕事を終えて、
ゆっくりとお茶の時間を楽しんでいました。

そこに

「とんとん。やさいください。カブください」
とドアを叩く音がしました。

カブおじさんが言いました
「カブはないよ。カブはないよ。」

「とんとん。そんなはずはないでしょう。カブが欲しい。カブください」

カブおばさんが言いました。
「いえいえ。カブはありません。カブはありません。」

「とんとん。うそを言うな。カブ隠すな。
カブよこせ~っっっ」

ばりんばりん とドアが壊れて
白いベロをダラリンとたらしたカブカブカジャーが現われたのです。

「うまそうなカブが三つも。
べろんべろん。」

カブカブカジャーが嬉しそうに揺れて
家の中にぶぉんぶぉんと風が吹きました。

「カブカブカジャー!!これを聞きなさい!!」
カブおばさんがすぐに呪文を唱えました

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー・・・

ところが、あと一回で呪文が終わるという時に
カブカブカジャーがカブおばさんを
ツーンとふっとばしてしまったのです。

怒ったカブおじさんは畑を掘るシャベルを振り回して
カブカブカジャーに立ち向かいました。

とやーっっぶんぶんぶん!!

カブおじさん、強い強い!
カブカブカジャーがオオオオと後ろに下がります。

えいえいえいっぶんぶんぶんぶん!!

カブおじさん、びっくりするほど強い。
けれど、カブカブカジャーもとても強い。
カブおじさんが負けてしまうかもしれない。

カブ孫は必死になって呪文を思い出そうとしました。

えーと、なんだっけ

ぽいぽいぱっぱー?
ぽいぽいパポー?

あー、もっと簡単な呪文ならいいのに!!

ああ、カブおじさん、あぶないーーっっっ

その瞬間、カブ孫は叫んでいました。

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー!!!!!

「あぁあ、気持ち悪い気持ち悪い!!いやいやいや、いやだぁ~っっ」
呪文を3回聞いてしまったカブカブカジャーは
見る間にキュルキュル~っと小さくしぼんでいきました。

カブおばさんは小さくなったカブカブカジャーを
パパッと野菜袋に放り込んでキュッと縛ると、
その袋を庭に埋めて、上から大きな石を乗せました。

「はあ・・・。これでもう大丈夫。」

みんなはほっとして、くたくたになりました。

「さあ、早く寝ましょう。このままじゃ全員シナシナになっちゃうわ。」
カブおばさんはそう言って、家の灯りを消しました。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

翌朝、石をどけてみると、袋の中のカブカブカジャーは、
おいしそうな茶色いお漬物になっていました。

食べてみたら、そのお漬物は今までに食べた何よりもおいしくて、
疲れてシナシナになっていたカブおじさんもカブおばさんも、
ツルツルのカブに戻りました。

カブカブカジャーのお漬物を食べた三人は、
それから病気にかかることもなく、
毎日たくさん働いて、幸せに暮らしましたとさ。


おしまい