「よんこま」という実験

今(2017年)現在「ママも自分を楽しもう♪」という風潮は
もはやタブーではなく、流行でさえあるように感じます。
とは言え、まだまだ世間の目は「母親」に厳しいですが(^^;)

私が「よんこま」を立ち上げた6年前はもっと窮屈でした。
そして、私が長男を産んだ10年前は多分もっともっと窮屈でした。
さらに言うと、「よんこま」を立ち上げた2011年は、
東北の大震災で日本全体が悲しく落ち込んでいて
「♪」という記号さえ不謹慎に思えるような空気でした。

でも、だからこそ、だったのでしょうか。
よくあの空気の中で、
「よんこま」という突き抜けて不真面目なコンセプトが
スイスイと進んでいったものだと思います。

沢山の人に助けていただきました。なのに、
進むことに必死で、
考えることが山積みで、
6年、振り返るとそこはモヤモヤと
既に霧のような思い出になっていました。

消える前に書かなくては。

「よんこま」という、誰もまだ触ったことのない実験に
私と2000人のママが関わってきたことの
数々の化学反応を。

「よんこま」は間違いなく、奇跡の化合物でした。

2017.08.25

どろぼうと星のおんなのこ

この作品は…
私が自転車カゴに置き忘れた財布を
(しかもプレゼントされたばかりの高いやつを)
一瞬の後に持っていかれた、その心痛から書きました。
さて、どんなラストになるでしょう?



作:うえき あやこ 絵:息子くん



あるところに、若い泥棒がいました。

泥棒といっても、家に忍び込んだりはしません。

買物途中のお母さんがふと置いたバッグを、
女の子が日向ぼっこさせていたお人形を、
お兄ちゃんが自転車のカゴに置き忘れたサッカーボールを、
ひょいひょいっと持って行ってしまうのです。

だから泥棒は自分を泥棒だとは思っていません。

「泥棒っていうのは人の家からお金をたくさん持ち出す悪いヤツだ。
俺は落ちているものや忘れ物を拾っているだけだから泥棒じゃない。
拾った俺はラッキーなだけなのさ」


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


そんな泥棒にも、欲しいものがありました。恋人です。

「かわいくて優しい女の子が、そばにいてくれたらいいのになぁ。」

そんな気持ちが通じたのか、いつの頃からか、どろぼうの傍らに、
フワフワと花びらみたいに優しげな女の子が
ついて歩くようになりました。


まだ小さくて、
泥棒が願っていたような大人の恋人ではなかったけれど、
彼女の微笑みは、泥棒をうっとりとさせて、
それだけで泥棒には十分でした。

その子は何も言わないけれど、
泥棒はなんとなく、
今までのように落とし物を持ち帰ることが恥ずかしくなりました。

なぜか、彼女にはそういう自分を見られなくないと思いました。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ある日、泥棒は女の子に贈り物をしたいと思いました。
でも、最近は人のものを盗っていないので、
店で買うにもお金がありません。

家にあるもので何かを作ろうと思いましたが、
あるものみんな、人から盗ったもので、
それをプレゼントの材料にするのはどうも気分が良くありません。

泥棒はふと、自分の巻いていたマフラーに気づきました。
そのマフラーは子供のころ、クリスマスプレゼントにもらったもので、
とても気に入っていました。

何年も洗わず汚れていたけれど、
何回も洗ううちに元のキラキラとした色が戻ってきました。

泥棒はそれを丁寧に乾かすと、
今度はマフラーを端からといて、
その糸で小さな指輪を編みました。

なんどもやり直して最後にできた、とても綺麗な指輪です。

だから大切だったマフラーは、もうほとんど残っていません。

でも、どろぼうの心は充実感に満たされていました。
こんなに何かに一生懸命になったのは初めてだと思いました。
女の子に指輪を渡すことを考えると、それだけで幸せな気持ちになりました。

翌日、夕焼けの時間、どろぼうは女の子に作った指輪をあげました。

嬉しそうに微笑む女の子の顔を見て、
泥棒の心も夕日の色に染まるようでした。

女の子は、自分の首から星のネックレスを外すと、
マフラーのなくなったどろぼうの寒そうな首に、
そっと、かけてあげました。
そして、指輪で飾った手を振ると、走って帰っていきました。


女の子はそれきり、どろぼうの前に現れませんでした。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


どろぼうは寂しくて何日も泣きました。

そしてまた、人のものを盗るようになりました。

星のネックレスだけが、どろぼうの胸でキラキラと輝いていました。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


その日、どろぼうは公園でうとうと夢を見ていました。
女の子と再び会える夢でした。
目覚めて、また悲しくなったどろぼうは、
星のネックレスに触れようとしました。
そしてさぁっと青くなりました。

星のネックレスがないのです。

落ちているかも、と寝ていた周りを探しましたが見つかりません。

さっきまでは確かにあったのに。
泥棒は祈る気持ちで来た道を探しました。でもどこにもないのです。

きっと誰かが、拾って帰ってしまったんだ。
あんなにキラキラした綺麗なもの、
なんで大事に家に置いておかなかったのだろう。
たった一つの、女の子の思い出だったのに。

泥棒は後悔しました。
そして強く願いました。
他のものなら何でもあげるから、
星のネックレスだけは返して欲しいと。

でも、そんな思いも、届くはずがありません。
ネックレスはもう、戻ってはこないのです。

泥棒は初めて気づきました。
物を盗ると言うことは、
その人から思い出も一緒に奪ってしまうことなのだと。
 
とぼとぼと、どろぼうは家に帰りました。
そして蒲団にくるまり丸くなりました。
真っ暗の中で、小さく小さく、まるまりました。



<おしまい>

カンパル君の節分

                            作:うえき あやこ







カンパル君とお母さんは今日もケンカ。
なぜって?
カンパル君が今日も頭を洗わないから。

「カンパル!頭を洗いなさい!」
「いや~だよ!!」

「頭がくさくなってるわよ。あークサイクサイ!」
「いいんだよ~」

「そんなクサイ頭をしていたら、オニに連れていかれるから」
「オニなんて来ないよ~」

「今日は節分の日よ。絶対にオニが来るわよ!」
「じゃあちょうどいいや。頭がクサイって、オニも逃げるでしょ」

カンパル君がそう言ってニヤニヤするので
お母さんは「あーもう」とため息をついて諦めた。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

夜になった。

キイイ~とドアの開く音がした。
お父さんが帰ってきたのかな?
でも聞こえたのは「きゃあ~っっ」というお母さんの悲鳴。
玄関にいたのはたくさんの大きなオニ!!

「カンパル!! 豆!! 豆をまいて!!」
お母さんが逃げこんできた。
カンパル君はあわてて用意していた豆をつかんで
オニに向かって投げつけようとした。

ところが!
「クサイクサイ!カンパルの頭がくさいよ~!!」と、
なんと豆の方が逃げてしまったのだ。

「何?クサイ頭だと?クサイ頭は大好きだ~!!」
オニたちは喜んでドスドスと部屋に入り込んできた。

一番大きなオニがぬうっと頭を突き出して言った。
「おれの頭もクサイだろう?だからおまえは仲間だ!
なのにツノがないのはおかしいぞ。おかしいぞ~!!」

「おかしいぞ、おかしいぞ~!!」
他のオニたちも太い恐ろしい声で合唱した。

「よし、お前の頭にも素晴らしいツノをつけてやろう」
恐ろしさに動くこともできないカンパルの頭に
オニの手がにゅうっと伸びてきた。

そこに小さい子供オニが飛び出してきた。
「おい! カンパル早く逃げろ!
僕もツノをつけられたんだ。
ツノをつけられたら、もう家に帰れないぞ!!」
子供オニは泣いていた。
子供オニの頭もプンプンくさい。

その時だ、お風呂場からお母さんが叫んできた。
「カンパル!!早く頭を洗うのよ!!」

そうだ! 頭を洗えばいいんだ!

「おいで!!」
カンパルは子供オニの手をグイとひっぱって
お母さんの待つ風呂場へスーパーダッシュした。

「まてまてまて~ぇっっっ」
オニが追いかけてくる。

お母さんは猛スピードでカンパルの頭を洗った。
じゃばじゃばじゃば どしゃー!!

ついでに子供オニの頭も
ぶしゃぶしゃぶしゃ ごしゃー!!

ころん。ころん。
子供オニの頭からツノが落ちた。

「お~の~れ~ぇぇぇ」オニが怒って風呂場に
重なり入ってきた。

「豆!! 戻ってこーい!!」
カンパルが両手をバッと伸ばすと
逃げていった豆たちが
ビューンバラバラーッと飛んで帰ってきた。

カンパルの手に一杯になった豆を見たとたん

「うわぁぁ豆だぁ~っっ」
「怖い怖い~っっ」
オニたちは次々に玄関から外に逃げ出していった。


「良かったね。良かったね。」
豆たちがニコニコキラキラ跳びはねた。


その夜、カンパル君はサラサラになった
いい匂いの頭をお母さんにぴったりとくっつけて
グッスリ幸せに眠りましたとさ。

みんなの頭は、大丈夫?


<おしまい>

神様の名前

                            作:うえき あやこ








すぐ目の前が海。
静かな砂浜から少し離れた小さな町に僕たちは住んでいた。

近所で子供は僕と、お姉ちゃんと、
もうすぐ生まれてくる弟だけだったから、
退屈すると、よくポロポロヤンとフサエさんに会いに行った。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ポロポロヤンは町で一番の年寄りだ。

本当の名前はきっと違うはずだけど、
ポロポロヤンに本当の名前を聞くと「ホントはドンドドンヤン」
次に聞くと「今日はパッパラパーヤン」って、
毎回違うことを言うから、僕はポロポロヤンって呼んでいる。

もうすぐ百歳のポロポロヤンは、
茶色い帽子を被って杖をついてゆっくり歩く。
海に近い大岩の上に座って分厚い本を読む。

僕はそこから何度も海に飛び込んでパシーンと水しぶきを飛ばす。
その度に「ヤメテクダサーイ!」「本ヌレマーシター」と
ポロポロヤンが変な調子で怒るから、
僕はおかしくてまた飛び込んでしまう。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


フサエさんはそんなポロポロヤンの奥さんだ。

フサエさんはポロポロヤンと同じくらいシワシワの顔をしているけど、
ちょっと変なポロポロヤンと違って、いつもキビキビ歩いているし、
買物カーを引っ張って、電車で町の外まで行くこともしょっちゅうだ。

僕が何かにくよくよしていたら、
「そんなの小さい。大丈夫大丈夫!」と
口を真横に開いてウワハハと笑う。

シワシワな顔がもっとシワシワになるんだけど、
僕はその顔がとても好きだ。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


しばらくして、ポロポロヤンが岩の上に来なくなった。

心配して家まで見に行くと
ポロポロヤンが具合を悪そうに横になっていた。

「病気なの?」と僕は心配したのに、
「ノーノー。よく寝るジジ、よく育つ」といつもの調子で返してきた。

フサエさんが「これ以上育ったら二百歳だわ。ウワハハ」と笑った。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


夏も終わりになる頃、天気の悪い日が続いた。

その日、お父さんはお母さんを隣町の病院まで連れて行き、
僕は無理やりお姉ちゃんと留守番をさせられていた。

「退屈だなぁ」と天井を見上げた時だ。

ウワワワワワワーン!!と警報が鳴り響いた。
隣のおばちゃんがスリッパで駆け込んできて叫んだ。
「津波が来るよ!」

僕とお姉ちゃんが息を切らして高台に駆け上がると、
もう町中の人達が集まっていた。

「相当大きな津波らしい」「家は大丈夫かな」
みんなが不安そうに言葉を交わす中、僕ははっと気が付いた。

ポロポロヤンとフサエさんがいない。

そのことを周りに伝えても、みんな顔を見合わせるばかり。
「助けに行かなきゃ!」僕がイライラと叫ぶと、
消防署のおじさんが「もう無理だ。津波はすぐそこまで来ている」と
悲しそうな目で僕の肩に手を置いた。

僕はその手を払いのけると、担架をかっさらって走り出した。
後からお姉ちゃんも追いついて一緒に走った。

海も空も灰色だ。
風の音が工事現場のようにガガガガガーと響く。
僕たちは担架を握り締めて夢中で走った。

  
    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 
「ポロポロヤン!!」

声を枯らしてドアを開けると、布団に横たわったポロポロヤンと、
その手を握るフサエさんがいた。
何か、お祈りをしているようだった。

「助けにきたよ!一緒に逃げよう!」

突然のことに二人は始めビックリした顔をしていた。
そして、いつもならウワハハと笑うフサエさんが、ポロポロと涙を流して
「もう、誰も来てくれないと思った」と泣いた。

ポロポロヤンを乗せた担架を僕とお姉ちゃんが担いだ。
すごく重くて、転ばないのがせいいっぱいだ。

「もういい、もういいよ」とポロポロヤンが僕の手をつかむ。

でも僕は絶対にあきらめたくなかった。
ポロポロヤンは大切な友達なんだ!

その時だ、巨大な波の壁が、突然に目の前に現れた。
オバケがゆらり、と手を広げて捕まえにきたみたいだ。
音も聞こえない。
声も出ない。
みんなその場に凍りついた。
「もうだめだ…」


すると信じられないことが起きた。


波が、まるで思い直したかのように、すうーっと、
僕たちの前から引いていったのだ。

後には青い海と、青い空が戻ってきた。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


僕たちがしばらくポカンと立ちつくしていると、
町のみんなが駆けつけてきた。
「よく無事だった!」
消防署のおじさんがほっとした顔で座り込んだ。

僕はすごく言いたいことがあったのに声が出ない。

すると突然「見たか!どんなもんだい!ウワハハハ!」と
フサエさんが胸を叩いて得意そうに笑った。

それを見て、僕もお姉ちゃんも、ポロポロヤンも、
「ウワハハハハハ!」と大声で笑った。


      ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


後からわかったことだけれど、ポロポロヤンは神父さんだった。

僕たちが助けにいった時、二人は最後のお祈りをしていたのだ。

僕は今も神様を信じていない。
でも、もし本当にいるなら、僕はポロポロヤンみたいな神様がいい。

「でも神様の名前がポロポロヤンじゃおかしいな」と僕が笑うと、
ポロポロヤンは少し考えてから静かに答えた。

「ではプカプカポーヤン。ドーデスカ?」


<おしまい>


これは私の、子供の頃に仲良しだった老夫婦から聞いた話を元に、
亡くなったお2人を偲んで2010年に書いた創作物語です。
まさかその後に東北の震災が起きるとは・・・

お2人の前で、津波は本当に止まったのだそうです。
「信じられないだろうけど」
とフサエさんが話してくれたことも、
きっと本当だったのだと思っています。

ポーチュータと枕の国

                            作:うえき あやこ








僕は寝るのが大嫌い。

お母さんが本を読んでくれても、とんとんしながら歌を歌ってくれても、僕はぜーったいに寝ない!

だってロボットで遊んだりテレビを見たり、楽しいことがたくさんあるのに、夜になったら寝なくちゃいけないなんて、全然意味がわからない。


そんな僕がまた無理やり寝かされそうになっていたある日の夜、
お母さんが「あっ、いっけない!」って、慌てて部屋から出ていった。
多分台所の水か火がそのままなんだ。お母さんはよく忘れる。
「やったねっ」僕はすぐに飛び起きようとした。

その時だ、枕元から声がしたんだ。

そして目の前の変な動物に気が付いた。

そいつは本当に変なんだ。
だってハムスターみたいな体をしているのに
細長い手足があって2本足で立っている。
お腹にはカラフルなブチがあるのに背中は真っ白。
手には長い筆を持っている。

目を丸くしている僕にそれは早口で言った。
 
「僕はポーチュータ!
君を枕の国、マクラーダに連れていくよ!
早く早く!準備をするんだ!
大人に見られたら僕消えちゃうよ!」

それに合わせて台所からお母さんの声
「すぐ行くから、起きちゃダメよー!」

まずい!見つかっちゃう!

「僕どうしたらいいの?」

慌てる僕のおでこにポーチュータのおでこがピタっとくっついた

「目を閉じて、力を抜いて、さあ沈め~!」

次の瞬間、ブクブクブク…
僕とポーチュータは枕の中に沈んでいった。


     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


しばらくするとフワフワしていた足がストンと地面を感じた。

「もういいよ」
というポーチュータの声に目を開けると、
そこは真っ白な世界だった。
あんまり真っ白で天井も壁もわからない。
怖くなって思わずポーチュータをつかんだら…

びっくり!
ポーチュータが大人くらいに大きいんだ。

「さっきはハムスターくらいに小さかったのに」
僕が驚いて見上げるとポーチュータはニヤニヤして
「もっとビックリするよ!何がしたいか言ってごらん!」

僕はすぐに「遊園地に行きたい!」と答えた。
遊園地はお金が高いからって、
なかなか連れていってもらえないから。

するとポーチュータはお腹のカラフルなブチを
筆でスルンと一撫でして、そおれっとジャンプ。
長い筆を空中でクルクル振り回した。

その瞬間、さっきまで何もなかった世界に
大きな色とりどりの遊園地が現れた!

たいこや笛の音、ジェットコースターからは悲鳴が聞こえてくる。

すごいや!僕は駆け出した。ポーチュータもついてくる。

こんにちは、と受付のお姉さんが笑って、
お金を払っていないのに中に入れてくれた。
ピエロのお兄さんが風船をくれた。
ポーチュータもいつの間にかアイスクリームを二つ手にしていた。

僕は食べても食べてもなくならない不思議なアイスクリームを食べながら、遊園地の乗り物全部に乗って、大好きなゴーカートは何周も何周も運転した。いつもは「別料金だからダメ」ってやらせてもらえない輪投げにも何度もトライして、僕の腕の中は景品で一杯だった。

「あー楽しかった!
でも僕ぜんぜん疲れてないよ?まだまだ遊びたいなぁ」

そう言って遊園地を見回す僕に、
ポーチュータは「そうそう、そうか」と満足そうに頷いた。

「でもマクラーダには夜しか入れないんだ。
朝になったら帰らないとね。」

「どうやって帰るの?」

「枕道を帰るんだ。
枕道は暗い迷路になっているから、ライトがないといけないね。」

そう言うとポーチュータは僕の手の平に
筆でくるっとオレンジ色の丸を描いた。
するとその丸がポワッと浮き上がって光りだした。
ぼくが手の平を動かすと、その上をついてくる。かっこいい!

「いいかい?この光は正しい方へ向かっている時はオレンジ色、
間違った方向へ向かっている時にはミドリ色に光るんだ。
ちゃんとこの光を見ながら、正しい方向に帰るんだよ。」

「えっポーチュータも一緒に帰ってくれるんじゃないの?」
僕は急に不安になった。

「だって僕が一緒に帰ったら、大人に見つかってしまうかもしれないだろ?君のお母さんがちょうど部屋にいるかもしれない。そうしたら僕は消えてしまうもの。」

うーん。そうか。怖いけどしかたない。
この光が案内してくれるからきっと大丈夫だ。
僕は自分をそう励まして光を見つめた。

「お、枕道が開いてきた」とポーチュータが空を見上げた。

え?上?と首を上げた瞬間、
空にポカっと灰色の穴が開いて、
ビューっと僕は吸い上げられてしまった!!

「うわうわ、あわあわ、わわわわわ~っっ」

空高く吸い込まれていく僕に向かって
ポーチュータがのんびりと叫んできた
「気をつけてね~。また会お~う」


     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


空にあいた穴に到着すると、そこがトンネルの入り口だとわかった。
手の平の丸い光がより強く光って行く手を照らしている。
枕道だからかな。ガサガサッ ゴソリッ とふいに音がする。

「えーと、こっちかな」
右と左の二手に分かれている道。まずは右に向かってみる。
するとすぐに手の平の光がミドリ色に光った。
ありゃ。最初から間違ってしまった。

「あっちに進んだらどこに行くんだろう?」
ちょっと行ってみたい気もしたけれど、
ポーチュータは「絶対にダメ」って言っていたし、
もしかしたらオバケの国に通じているのかもしれない。
そう考えたらヒヤリと怖くなった。

あわてて元の場所に戻って今度は左に進んだ。
手の平の光がオレンジ色に輝いて僕はホッとした。
ミドリ色に冒険するのは今度にしよう・・・

そうして何度か曲がりくねるうちに、
出口らしき明かりが遠くに見えてきた。
もう少しだ!僕は早足になった。

と、突然手の平の光が弱くなった。
わぁっ消えちゃう!!
ふと振り返ると来た道は真っ暗。
光が消えたら帰れない!

僕は猛スピードで走った。
光はどんどん小さくなって足元が見えなくなってくる。
出口はもうすぐなんだ。急げ急げ急げ~っっっ


     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「はっ」
と目が覚めたのと、
お母さんが部屋のカーテンを開ける「シャッ」という音が同時だった。

「お母さん、おはよう」
心臓のドキンドキンをこっそり隠しながら声をかけた。
ポーチュータはついて来なくて正解だったな、と思った。

手の平の光はすっかり消えていた。
最後に光が弱くなったのは、
多分お母さんが部屋に入ってきたからだろう。
僕の手がピカピカ光っているのが見つかったら、
きっと色々がバレてしまう。

でも「お母さん、もう部屋に入らないで」って言うのは
なんだか怪しまれそう・・・

僕はちょっと考えた。
よし。こう言おう。
 
「お母さん、僕、明日から自分でカーテン開けるから、
部屋に来なくていいよ」

どうしたの急に、とお母さんが笑う。

「あのね。今日から僕、1人でちゃんと寝るから。
夜もお母さん、部屋に来なくていいからね」

お母さんが今度はびっくりした顔で僕を覗き込んできた。
「どうしたの?不思議!」


本当は、もっと不思議なことがあったんだよ。お母さん!


でも・・・それは内緒。



<おしまい>

カブカブカジャーとカブおじさん

 作:うえき あやこ







むかしむかしのあるところに、
白いカブのカブおじさんと
カブおばさんと、カブ孫が住んでいました。

三人はとっても仲良しで働き者です。

カブおじさんは畑で野菜を作ります。

カブおじさんが育てると、
甘い野菜も苦い野菜も全部おいしいのです。

カブおばさんは育った野菜を洗って袋に入れます。

カブ孫はその野菜をみんなに売って歩きます。

「やさい~やさい~おいしいやさい~
カブ以外は、なんでもあるよ~
やさいはいかが~やさいはいかが~」

カブ孫はよく響く良い声をしていました。
遠くにいる人もフラフラ~フラフラ~と
ついその声に誘われてやってきます。

「にんじんくださ~い」
「はいどうぞ。これはニンジン色がきれいなニンジンですよ!」

「きゅうりくださ~い」
「はいどうぞ。これはきゅうり色がきれいなきゅうりですよ!」

「おいもくださ~い」
「はいどうぞ。これは最高にきれいなおいも色のおいもですよ!」

そう。カブおばさんが洗うと野菜はみんなピカピカきれいな
やさい色になるのです。だからカブ孫が売る野菜は
とっても人気があって、いつもすぐに売り切れてしまいます。

野菜を全部売ったら、
カブ孫は暗くなる前にいそいそと家に帰ります。
暗くなるとカブカブカジャーが出るからです。

カブカブカジャーはカブが大好物なオバケ。
その白いおおきなベロでベローンと舐められたら
カブはあっというまに溶けてしまうのです。

「いい?カブカブカジャーが出たらこの呪文を3回言うのよ」

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー!

「カブカブカジャーはこの呪文が大嫌いだからね。
大きな声で唱えて追い払うのよ。」

ところが、カブおばさんにそう何度教えられても、
カブ孫はこの難しい呪文を覚えられません。

だから急いで帰るのです。
暗くなる前に。暗くなる前に。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ある日曜日の夜。
カブおじさんたちは仕事を終えて、
ゆっくりとお茶の時間を楽しんでいました。

そこに

「とんとん。やさいください。カブください」
とドアを叩く音がしました。

カブおじさんが言いました
「カブはないよ。カブはないよ。」

「とんとん。そんなはずはないでしょう。カブが欲しい。カブください」

カブおばさんが言いました。
「いえいえ。カブはありません。カブはありません。」

「とんとん。うそを言うな。カブ隠すな。
カブよこせ~っっっ」

ばりんばりん とドアが壊れて
白いベロをダラリンとたらしたカブカブカジャーが現われたのです。

「うまそうなカブが三つも。
べろんべろん。」

カブカブカジャーが嬉しそうに揺れて
家の中にぶぉんぶぉんと風が吹きました。

「カブカブカジャー!!これを聞きなさい!!」
カブおばさんがすぐに呪文を唱えました

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー・・・

ところが、あと一回で呪文が終わるという時に
カブカブカジャーがカブおばさんを
ツーンとふっとばしてしまったのです。

怒ったカブおじさんは畑を掘るシャベルを振り回して
カブカブカジャーに立ち向かいました。

とやーっっぶんぶんぶん!!

カブおじさん、強い強い!
カブカブカジャーがオオオオと後ろに下がります。

えいえいえいっぶんぶんぶんぶん!!

カブおじさん、びっくりするほど強い。
けれど、カブカブカジャーもとても強い。
カブおじさんが負けてしまうかもしれない。

カブ孫は必死になって呪文を思い出そうとしました。

えーと、なんだっけ

ぽいぽいぱっぱー?
ぽいぽいパポー?

あー、もっと簡単な呪文ならいいのに!!

ああ、カブおじさん、あぶないーーっっっ

その瞬間、カブ孫は叫んでいました。

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー!!!!!

「あぁあ、気持ち悪い気持ち悪い!!いやいやいや、いやだぁ~っっ」
呪文を3回聞いてしまったカブカブカジャーは
見る間にキュルキュル~っと小さくしぼんでいきました。

カブおばさんは小さくなったカブカブカジャーを
パパッと野菜袋に放り込んでキュッと縛ると、
その袋を庭に埋めて、上から大きな石を乗せました。

「はあ・・・。これでもう大丈夫。」

みんなはほっとして、くたくたになりました。

「さあ、早く寝ましょう。このままじゃ全員シナシナになっちゃうわ。」
カブおばさんはそう言って、家の灯りを消しました。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

翌朝、石をどけてみると、袋の中のカブカブカジャーは、
おいしそうな茶色いお漬物になっていました。

食べてみたら、そのお漬物は今までに食べた何よりもおいしくて、
疲れてシナシナになっていたカブおじさんもカブおばさんも、
ツルツルのカブに戻りました。

カブカブカジャーのお漬物を食べた三人は、
それから病気にかかることもなく、
毎日たくさん働いて、幸せに暮らしましたとさ。


おしまい

3歳までの記憶について_三つ子の魂いつまで?

何かの記事で読んだのですが、
「全ての大人が、3歳までの記憶を持たない。」
それが今も専門家の間で謎だと。 

確かに私も覚えていません。
というか、小学校1年くらいからの記憶しかないです。

不思議ですよね。
3歳までに吸収することは膨大で、
その経験の上に4歳、5歳・・・と積み重ねられていくのに、
基礎となる3歳までの記憶が大人になるとなくなってしまう。 

でも私にはこの理由がわかるような気がします。
遺伝子は、3歳までの記憶を消した方が
その後の人生にプラスになることをわかっているのです。 

だって、3歳までって普通ロクな記憶がないじゃないですか。 

暗い狭いに閉じ込められる10ヶ月(耐えられません)、
首を折り曲げ・頭蓋をねじって出てくる誕生日(辛すぎる)、
肺に入れたこともない空気を入れ、
お腹に入れたこともないミルクを入れ、
裸でいたいのに着膨れさせられ、
いいかげん辛いから泣けばガックンガックン抱っこ(や~め~て~)、
優しいお母さんの顔が、時に般若と化し(しかしナゼだかわからない)
「お母さん大好き!」と心から伝えたいのに、
どんなに頑張っても 「あー」とか「ぶー」とかにしかならず(これが2年ぐらい)、
わかんないこと、わかってもらえないことばっかりの毎日。
きっと大人なら耐えられないストレスでしょう。 

一方、大人も辛いのです。
赤ちゃんだからしょうがないと思っても
自分まで赤ちゃんになれるわけではないので普通に頭にくることは頭にきます。

我が子には笑顔だけを覚えてて欲しいのに、
世界中の誰にも見せたことがないような憎悪の表情を
むけずにはいられない。そして自己嫌悪・・・
何度寝顔に謝ったり、ポロポロ涙したりしたことか。 

そんなわけで、親子ともに、3年間の試練を乗り越えたら
きれいさっぱり嫌なことは忘れてしまった方がいいのです。
人類繁栄のために不可欠な機能として、
長い進化の過程で 脳の仕組みの一つになったのです。(おぉ~っっ)

ついでにこの仮定からは、こんな式が書けます。
誰もが忘れる=どの子も同じ=どの親も同じ

「子供を愛している」 その気持ちがあれば、
たまに理不尽に怒ってしまったとして、 大丈夫。
みんな同じだし、みんな忘れてくれます♪
でも魂は「愛情」や「優しい空気」を忘れません。
ずっとずっと伝えたかった「ダイスキ」を言葉にするために・・・ 

こうして都合よく解釈しながら、今日も育児に立ち向かうのです!

オオミズアオを拾いました

夕闇の帰り道、娘が「何かいるよ!」と。
息子が「オオミズアオだ!」と大興奮。
弱っていましたが、指を差し出すと登ってきました。
無駄に…虫には好かれます…

人生で初めて見ました。
息子がムシキングカードに持っていて
すぐに「オオミズアオ」と判別できたのですが、
本当に、そのイメージの通り大きくて綺麗でした。
翠のビロード羽も、真っ白な胴体も美しくて。

実は先日にも息子が別のオオミズアオの無傷な死骸を
見つけていて、「お母さんも見たい!」と
二人で息切らせて向かった時には誰かに持ち去られた
後だった、という残念なことがあったのです。
大騒ぎしながら一緒に帰宅して、
わずか1時間後には動かなくなってしまいました。

こんな大きな虫が、街中に生息するものなのだろうか。
後で調べてみたところ、Wikipediaに
「サクラの葉を食べるため都心の街路樹に見かけることもある」
とありました。

最期サクラの木に乗せてやったら幸せだったんだね…

2017/08/25


お祓いの効果

人生全般がほぼ祟られている私ですが
2015年と2016年の2年間は特にひどく、心身ともに病みました。

何かあるごとに「お祓い行きなよ!!!!!」 と進言されてきましたが
「いや・・・これだけ不運に見舞われて生きているのは、むしろ
守護霊のおかげかもしれないよ? 守護霊祓われたら死んじゃうよ?」
と、なかなか行動に移せませんでした。

そもそもが非科学的なことを信じない性分なので
「お祓いなんてお金をかけて気分上げるだけでは」
という疑念もありました。しかし、
そうも言っていられないくらい追い討ちがかかり、
ついに2016年末、一念発起のお祓いに行きました。

初めてのことで他を知らないのですが、
そこの受付にはメニューがありまして
「家内安全、厄除け、召福、商売繁盛・・・」などなど
色々とあり過ぎたので、どれか1つを選びづらく
受付の方に「これこれこういう経緯があって今日来たのですが」
と説明してお勧めを聞いたのですが、その不幸てんこ盛り状態に
受付の方が狼狽してしまい、「それは宮司に直接聞いて下さい」
と言われてしまいました。

そして同じように宮司さんにお伝えしたところ宮司さんも
「えええ」という顔になり
「では・・・厄除けに召福の文言も含めてやらせていただきます」
そこから多分相当真剣にお祓いして下さって、最後
「これで少しは幸せが訪れると良いのですが・・・」と
めちゃくちゃ不安そうに労われました。
あぁ、もうそんな、お気遣いなく!(汗)

それから度々「どう?お祓い効果あった?」と聞かれましたが
正直その効果を実感する出来事はなく
「効果はゆっくり出るんじゃない?」と期待半分でした。

しかし、それから半月たった頃、子供の友達が遊びに来た際に
姿見鏡がバーンと倒れ、割れた鏡が散乱する事件がありました。
その鏡は私が学生で一人暮らしを始めた時に人生初のローンを
組んで購入した記念品だったんですけど(涙)
それでも怪我人が出ないだけ幸いだったと思いました。

それから半月の後、冬真っ只中に子供が嘔吐風邪をもらいました。
そして、防ぐこともできないまま、布張りのソファにドーン。
そのソファは1年前に年末年始を返上して家を片付けたご褒美に
思いきって購入したものだったんですけど(涙)。

そうして立て続けに大物家具が破棄となり、
部屋は良くも悪くもスッキリ。
そこでようやく気付きました。

家から家具が祓われた。。。

そうして2017年新年を迎え、夏を迎え、今も安定の不運続き。
でも生きてるってことは、守護霊は無事なのです。きっと。

2017/08/20

危うく皇室テロでした

これまた何十年も前の話になりますが、
学生時代にアセアン10周年だかのタイミングがあり、
その記念式典として大きな舞踊ステージが企画され、
大学掲示板に通訳バイトの募集が上がり、
私もその一員として働くことになりました。

※通訳バイトは当時高給だったので、貧乏学生は
多少実力が及ばずとも果敢にダイブしておりました。

仕切っていたのは美しく、キャリアも人脈もある大人の女性。
準備後半の方はもう誰もが「やばい、本番やばい」状態で、
その美しい人が 「あーもー! みんなカネカネって!!!!!」
とキレているのを見ながら私も走り回っていました。

この開催、もちろん箱も大きかったのですが、
なぜここまで必死だったかと言うと、
初日に皇族をお迎えすることになっていたからなのです。
秋篠宮文仁親王と、紀子様と。


そんなわけで何かドーンとしたことをしなくてはならず、
アジア各国の楽団を1つにまとめた『アセアン虹のオーケストラ』
なるものを結成し、その全員と日本人指揮者の間に入る通訳が
私の仕事になりました。よく本番に漕ぎ着けたものです...

母国語の異なる100人が指揮者の元にまとまっていく、
その過程を共にすることは素晴らしい体験でした。
しかししかし、やはりアジア人。
アジア時間もあれば、アジア倫理もある。
練習中の「脱走」などは普通にありました。
そして本番当日も、直前にメンバー1人が行方不明になったのです。

もうあと30分で幕が上がるというようなタイミングです。
「△さん! △さんどこですか~!!!」
来場者の人混みを掻き分け焦り探しました。
その視線の先に△さん発見!
「△さん!!」と飛び出した瞬間、ガッと羽交い絞めにされました。

本物のSPに。

人生でSPに取り押さえられる経験をする人はそういません。
いったい何が起きていたのでしょう。

それまで△さんしか目に入っていなかったのですが、
その足元はレッドカーペットでした。
まさにその先に黒塗りの車が停まり、
秋篠宮様と紀子様が降り立ち、
赤い絨毯ロードは厳戒態勢。
人だかりがそこだけスッと一本抜けたような完璧な静寂。

そこに叫びながら飛び出したんですね (ノ∇≦*)

私の目の前を、お2人がにこやかに過ぎていかれました。

ニュースにならなくて良かったです。

NO と言える松岡修造さん

まだ松岡修造さんが現役テニスプレーヤーだった頃の話です。

当時ロンドンにいた私は、その日、
松岡修造さんが初出場したウィンブルドンの試合場にいました。
まだ予選で、多分それほど日本でも話題にはなっておらず、
彼の試合を見守る人影はまばらな上に、
日本人ともなると他にいませんでした。

その私さえ、特にテニスファンではなく、
もちろん松岡さんの出場を知って足を運んだわけでもなく、
「せっかくこの地にいるのだから」と立ち寄った先で、
たまたま日本人の名前に気付き、興味本位で
試合途中から観戦しはじめたという安いギャラリーでした。

さて、その予選コート。
センターコートとは違い普通のオープンコートです。
フェンスからは選手のリアルな息遣いまで感じ取れます。
それくらいですから、独り言は全部聞こえます。

「いくぞいくぞー!」「取るぞ取るぞー!」
と、試合中ずっと大きな声で喋っている。

わー、なんか珍しく よく喋る人だなぁー(大声だし)
と、先入観のなかった当時の自分は素直に驚いていましたが、
今となると何の驚きもないですね。ザ・松岡修造。

そんな彼が目の前で見事に勝利を収め、退場していきました。
アガシだったりシュティッヒだったりが人気だった当時、
黄色い声援は遠くに聞こえ、松岡さんは勝ったのにボッチという淋しさ。
選手控えに繋がる道にはスター選手を追いかける日本人女性も
多くいたのですが、松岡さんには目もくれません。

「かわいそう!😭  私は応援してたよって、伝えたい! 」
急に日本人としての使命感に駆られ、
彼の大きな背中を追いかけました。

あと少しというところ、
急に後ろから羽交い絞めにされたのです。

松岡修造さんが遠ざかる。
見上げればゴツイ黒人さん。
私はうっかり「立ち入り禁止区域」まで走りこんでいて、
スタッフにとっ捕まったのでした。

「松岡さん!松岡さん!」と指さしで訴えると、
スタッフは松岡修造さんを呼び止めてくれました。

"Do you know this lady?"
"No."

瞬殺 !!!!!!!


松岡修造・・・独り言はあんな喋ってたのに・・・
英語はノーだけでした・・・

かくして、私はそのままツマミ出され
「ひどい! 次負けろ松岡!!!!」と呪ったのでした。

今この話を聞いたら、松岡修造さんは覚えているでしょうか。
是非サイン色紙の一枚でも贈っていただきたい。
寄せる一言はもちろん、「No!」 で。

振り向きません!

まだ私が山中の中学でほのぼのと暮らしていた時代の話です。

2年生のある日、木漏れ日の中を1人下校する背中に
男子生徒達の冷やかす声がかかってきました。

「オネーサーン」
「一緒に帰ろうよ~」
「恥ずかしがらないでさぁー」

やだな。ばか男子。
私は気にしないことにしてズンズン歩きました。
それでも男子達はからかいをやめません。

「オネーサーン」
「無視しないで~」
盛り上がる男子の笑い声。
あったま来るなぁ。

フゥッと息を吐き、思い切って振り返りました。
「もう、いいかげんにしてよ!!!」

その先に見えたのは
8人くらいの同学年男子。と、
その前を歩く、可愛い女子2名。

一瞬の沈黙の後

「おまえじゃねぇよ、うえきあやこ!!!!」
😂😂😂😂😂😂😂😂

その後、どうやって帰宅したのでしょう。
全く記憶にありませんが相当死ねたはずです。
この日を境にして、名指しで呼ばれない限り
決して振り返らなくなったのでした