カブカブカジャーとカブおじさん

 作:うえき あやこ







むかしむかしのあるところに、
白いカブのカブおじさんと
カブおばさんと、カブ孫が住んでいました。

三人はとっても仲良しで働き者です。

カブおじさんは畑で野菜を作ります。

カブおじさんが育てると、
甘い野菜も苦い野菜も全部おいしいのです。

カブおばさんは育った野菜を洗って袋に入れます。

カブ孫はその野菜をみんなに売って歩きます。

「やさい~やさい~おいしいやさい~
カブ以外は、なんでもあるよ~
やさいはいかが~やさいはいかが~」

カブ孫はよく響く良い声をしていました。
遠くにいる人もフラフラ~フラフラ~と
ついその声に誘われてやってきます。

「にんじんくださ~い」
「はいどうぞ。これはニンジン色がきれいなニンジンですよ!」

「きゅうりくださ~い」
「はいどうぞ。これはきゅうり色がきれいなきゅうりですよ!」

「おいもくださ~い」
「はいどうぞ。これは最高にきれいなおいも色のおいもですよ!」

そう。カブおばさんが洗うと野菜はみんなピカピカきれいな
やさい色になるのです。だからカブ孫が売る野菜は
とっても人気があって、いつもすぐに売り切れてしまいます。

野菜を全部売ったら、
カブ孫は暗くなる前にいそいそと家に帰ります。
暗くなるとカブカブカジャーが出るからです。

カブカブカジャーはカブが大好物なオバケ。
その白いおおきなベロでベローンと舐められたら
カブはあっというまに溶けてしまうのです。

「いい?カブカブカジャーが出たらこの呪文を3回言うのよ」

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー!

「カブカブカジャーはこの呪文が大嫌いだからね。
大きな声で唱えて追い払うのよ。」

ところが、カブおばさんにそう何度教えられても、
カブ孫はこの難しい呪文を覚えられません。

だから急いで帰るのです。
暗くなる前に。暗くなる前に。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ある日曜日の夜。
カブおじさんたちは仕事を終えて、
ゆっくりとお茶の時間を楽しんでいました。

そこに

「とんとん。やさいください。カブください」
とドアを叩く音がしました。

カブおじさんが言いました
「カブはないよ。カブはないよ。」

「とんとん。そんなはずはないでしょう。カブが欲しい。カブください」

カブおばさんが言いました。
「いえいえ。カブはありません。カブはありません。」

「とんとん。うそを言うな。カブ隠すな。
カブよこせ~っっっ」

ばりんばりん とドアが壊れて
白いベロをダラリンとたらしたカブカブカジャーが現われたのです。

「うまそうなカブが三つも。
べろんべろん。」

カブカブカジャーが嬉しそうに揺れて
家の中にぶぉんぶぉんと風が吹きました。

「カブカブカジャー!!これを聞きなさい!!」
カブおばさんがすぐに呪文を唱えました

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー・・・

ところが、あと一回で呪文が終わるという時に
カブカブカジャーがカブおばさんを
ツーンとふっとばしてしまったのです。

怒ったカブおじさんは畑を掘るシャベルを振り回して
カブカブカジャーに立ち向かいました。

とやーっっぶんぶんぶん!!

カブおじさん、強い強い!
カブカブカジャーがオオオオと後ろに下がります。

えいえいえいっぶんぶんぶんぶん!!

カブおじさん、びっくりするほど強い。
けれど、カブカブカジャーもとても強い。
カブおじさんが負けてしまうかもしれない。

カブ孫は必死になって呪文を思い出そうとしました。

えーと、なんだっけ

ぽいぽいぱっぱー?
ぽいぽいパポー?

あー、もっと簡単な呪文ならいいのに!!

ああ、カブおじさん、あぶないーーっっっ

その瞬間、カブ孫は叫んでいました。

ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー
ぽいぃぽいうっと・ぺーぽぱー!!!!!

「あぁあ、気持ち悪い気持ち悪い!!いやいやいや、いやだぁ~っっ」
呪文を3回聞いてしまったカブカブカジャーは
見る間にキュルキュル~っと小さくしぼんでいきました。

カブおばさんは小さくなったカブカブカジャーを
パパッと野菜袋に放り込んでキュッと縛ると、
その袋を庭に埋めて、上から大きな石を乗せました。

「はあ・・・。これでもう大丈夫。」

みんなはほっとして、くたくたになりました。

「さあ、早く寝ましょう。このままじゃ全員シナシナになっちゃうわ。」
カブおばさんはそう言って、家の灯りを消しました。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

翌朝、石をどけてみると、袋の中のカブカブカジャーは、
おいしそうな茶色いお漬物になっていました。

食べてみたら、そのお漬物は今までに食べた何よりもおいしくて、
疲れてシナシナになっていたカブおじさんもカブおばさんも、
ツルツルのカブに戻りました。

カブカブカジャーのお漬物を食べた三人は、
それから病気にかかることもなく、
毎日たくさん働いて、幸せに暮らしましたとさ。


おしまい